声を押し殺し泣きじゃくるあたしを、信長は強く抱きしめた。

 この人のためなら……。
 あたしは何だって出来る。

 信長の楯となり……。
 敵を殺めることだって出来る。

 血に染まった信長の腕の中で……。
 あたしも鬼になると、心に誓った。

 信長は信勝を座らせ、自刃したかのように腹に刀を突き刺す。

 ――騒ぎを聞きつけ、部屋に家臣が続々と集まる。その中には信長の命を受け、信勝暗殺のために動いていた河尻秀隆(かわじりひでたか)池田恒興(いけだつねおき)の姿もあった。

 血の海の中で絶命している信勝を目の当たりし、家臣は息をのんだ。

 信長もあたしも信勝の血に染まり、鬼のような形相で家臣を見据えた。

「殿……これは……」

「信勝が謀反を起こした。わしの命を狙い斬りかかったため、この場で成敗したまで。決して騒ぎ立てるでない。母上や周辺諸国には、信勝は謀反を起こし自刃したと伝えるのだ。よいな」

「ははーっ」

 信長はあたしの秘密を隠し通した。

 信勝は信長暗殺を企てたが失敗し、武士として潔く自刃したと土田御前には伝えられた。

 狂ったように泣き叫ぶ土田御前の姿を目の当たりにし、あたしと信長は人には言えない秘密をまた一つ心に深く刻んだ。