「安心しろ。帰蝶とは契りを交わしてはおらぬ。わしは紅を好いておるのじゃ」

 信長はあたしの体を優しく愛撫する。
 8年もの間、晒しできつく押さえつけれていた乳房が、信長の手で解き放たれ女に戻る。

「……ああ」

 抵抗するものの、耳元で『紅を好いておるのじゃ』と囁かれ、体から力が抜け落ち、自然と声が漏れた。

 越えてはならない男と女の一線。
 頭では理解できているのに、体に力が入らない。

 信長はあたしの変化を察知し、掴んでいた手を離し、袴の帯をするするとほどいた。

「……だめ」

 信長はあたしの指に、自分の指を絡めた。

 ずっと抑えていた熱い感情が……。
 一気に溢れ出す。

 あたしがお慕いする人は……。
 暴君で手がつけられない大うつけだ……。
 
「紅、わしの側に仕えよ」

「……なりませぬ」

「わしのものになれ」

 イヤイヤと首を振るものの、絡めた指はわたしの心を離してはくれない。

「暴れるでない。己の心に従え」

「……のぶなが……さま」

 信長は狡い男だ。
 帰蝶という正室がありながら、女にうつつを抜かす。

 1人の女を愛することも出来ないくせに、男と偽るあたしを面白半分に抱いているに違いない。

 それなのに、あたしは……。
 あたしは……。

 そんな信長を……。