寝所で待つこと数時間。
 時計がなく時刻はわからないが、夜明けも近い。

 襖がスーッと開き、信長が部屋に足を踏み入れる。

「まだ起きておったのか」

 信長は驚いたように声を発した。
 私が寝ていると思ったのだろう。

 畳に三つ指をつき、信長に頭を下げる。

 信長は乱暴に私の腕を掴んだ。
 腕を引き寄せられ、信長の胸に倒れ込む。

 強引な態度に、恐怖から戦慄が走る。

「蝮の娘にしては、美しい姫君だ。声が出せぬとはまことか」

 私は信長の腕の中で頷く。

「怯えた目をするでない。そなたはわしの妻になりたいのであろう。ならば、抱いてやる。鳴かぬなら鳴かせてみせるまで」

 信長は私の着物の襟を、左手で乱暴に開いた。胸元が露わになり、思わず手で隠す。

(いやっ……)

 乱暴な振る舞いに、あの忌まわしい記憶が蘇る。体がガクガクと震え、泣きながら(いやいや)と首を左右に振りながら抵抗するが、少年とはいえ男の力は強い。

 信長は泣いている私の唇を奪い、冷たい言葉を浴びせた。

「なぜ、抵抗する。なぜ、泣く。わしの妻になりたいのであろう。なぜ、そのように震えている。そなたは再嫁であろう。男を知らぬ生娘ではなかろうに」

 信長は私を布団に押し倒し馬乗りとなり、腰紐をほどいた。

(お願い……やめてー……)

 叫ぶことも出来ず、号泣する私。
 覚悟は出来ていたはずなのに、心が追いつかない。

 信長は私を見下ろし(さげす)む。

「そんなにわしが嫌か? ならばなぜ嫁いだ。和睦のためか」

 信長は冷めた眼差しで、私の体から離れた。

「そのような顔を見ていると、虫酸が走る。今宵は他の女を抱く。それで文句はなかろう」

 信長はそう吐き捨てると私に背を向け、寝所を出て行った。私は乱れた着物を直すこともできず、布団の上で泣き崩れた。