「暴れるなと申したであろう。貴様、我らの言葉がわかるのか?」

 異人はわしを見据えたまま、コクンと頷いた。

「理解出来るのだな? 貴様は何処から来た。南蛮か?」

「南蛮? 日本人に決まってんだろ! ここは何処だよ! 映画の撮影か! ふざけた真似しやがって、いい加減にしろ!」

「生意気な口がきけるではないか。映画の撮影とは何のことだ? そもそも映画とは何を意味する? みなは知っておるか?」

「さて、映画とは何ぞや。初めて耳にする言葉ございまする」

 家臣は不思議そうに首を傾げる。

「そなたは黒き紅をさしておるな。女か? 女ならば、わしが鳴かせてやろう」

 男か女かわからぬ異人をからかうと、異人は憤慨(ふんがい)し声を荒げた。

「お……俺は男だ! お前みたいな奴に抱かれてたまるか!」

「男とな。奇妙な(なり)だな。武士には見えぬが何処から来た」

「俺は東京から来た」

「東京とな? はて、そのような国が日本国にあるのか?」

 家臣に問うが、首を捻るばかりでこの男の言葉の意味が理解出来ない。

「信長様、この者をどうなさるおつもりで」

「異人の女ならば抱くもよしと思っておったが、男であるならばわしと勝負し、この信長を負かすことが出来たなら、家臣にしてやってもよい」

 その場にいた者達が、一斉に声を上げる。

「な、なんと! このような素性も知れぬ野犬を家臣とな? 信長様、戯れが過ぎまする」

「わしに勝てばの話だ。この信長に勝てるはずはない」

 わしは奇妙な形をした男に、木刀を投げる。刀を鞘に収め、もう一本の木刀を肩に担ぎ裸足で庭先へと飛び出す。

 薄らと雪の残る中庭。小雪が寒風に巻き上げられ庭を舞う。男は痛めた足を引き摺り、わしを睨みつけ木刀を構える。その様はまるで狂犬だ。

 双方の木刀が、激しく音を鳴らし(せめ)ぎ合う。十字に交わりし木刀、ジリジリと歩み寄り互いを威嚇(いかく)する。男との睨み合いは数分続いた。