「ていうか、信長なんかどうでもいいや」

 あたしはその本を学生鞄の中に放り込む。信長には全く興味はなかったが、信也から借りた本を持っていれば、信也と繋がっていられると思ったから。

 空腹も満たされ、洋服のままベッドに潜り込み目を閉じる。

 初めて男の人に抱かれた。
 後悔なんてしていない。

 信也の心があたしに向いてなくても、あたしは自分の心に忠実でいたい。

 「……すきだよ」

 窓から月を見上げそう呟く。
 信也に抱かれているような心地よさ。
 
 いつの間にか、深い眠りに落ちた。
 


「紗紅、起きなさい。またこんなところで食べたの。食べ終わったらちゃんと片付けなさい。ほら、学校に遅れるわよ」

 姉にカーテンを開けられ、朝日が狭い部屋に飛び込む。睡眠を邪魔され、あたしの苛々はピークだ。

「……うっせーな。寝かせろよ。学校なんか行かねーよ」

「なに行ってるの。早く起きなさい」

 お節介な姉に背を向け、頭から布団を被る。

 もし家が裕福な家庭なら、姉は間違いなく名門私立高校に入学していただろう。

 高校受験の時、担任から名門私立高校の推薦入試を勧められたが、家庭の経済状況を把握し公立高校を受験した。

 当然、姉の成績は学年でトップ。
 ギリギリの成績で奇跡的に合格したあたしは、学年最下位に近い。

 優等生で自分の夢や希望より、家族や家庭のことを一番に考える姉は、正直ウザイ。

「お弁当、ここに置いとくから、必ず登校しなさいよ。いいわね」

 その口調、まるで母親だ。

 母と姉が家を出たのを見計らい、あたしはゆっくり体を起こす。

 信也はもう起きたかな。
 もう仕事しているのかな。 
 
 信也に抱かれた夜を思い出し、澄んだ青空と太陽の光がやけに眩しい。