「信也、泊めてくれないの?」

「ここは社員寮みたいなもんだからな。ここで同棲はできないよ。それに親と喧嘩したくらいで家出するなんて、賛成できねぇ。紗紅、早くシャワー浴びろ」

「わかったよ! 帰ればいいんだろ!」

 満ち潮が音を立てて引くように、さっきまでの昂揚感が一気に冷めていく。

 あたしは洋服を掴み浴室に入る。
 狭い浴室、ポタポタと水漏れしている錆びた蛇口。シャワーの栓を捻ると水が吹き出し思わず悲鳴を上げ、シャワーに八つ当たりする。

「なんだよ、このボロアパート。シャワーまでバカにしてんのかよ」

 低めに湯の温度調節をし、火照った体を冷ます。

 肌の上を水滴がコロコロと転がる。
 あたしの気持ちも、コロコロと転がり落ち排水溝に吸い込まれる。

 浴室のドアの外で、信也の声がした。

「……さっきはごめん」

 そんなこと言わないでよ。
 どうして謝るの。

 信也の本心を知りながら、抱かれた自分が惨めになる。

 あたしはシャワーの水量を強め、信也の声を掻き消し、聞こえなかった振りをして返事はしなかった。

 あたしは信也みたいに大人じゃない。
 こんな時、どんなリアクションをしたらいいのかわからない。

 それでも……
 信也のことが嫌いになれないなんて、あたしもとことんバカだ。