「…なに言ってるかわかんないです」
「文学センスがないなぁ」
「そんなこと言われても」
「明日から毎日…いや、気が向いたときでいいからさ」
「…え?」
「下館くん。―――私に、きみのことを教えて」
こんな予定はなかったし、たとえ病気のことを知っている教師でも、自分のことを話すつもりなんてなかった。
声に出したら一気に現実味が増すから避けてきた。
俺の世界から音がなくなる未来を実感したくなかった。
―――“いつか空の飛び方を知りたいと思っている者は、まず立ち上がり、歩き、走り、踊ることを学ばなければならない。その過程を飛ばして飛ぶことはできないのだ”
今まで聞いたこともなかった哲学者の言葉が、どうしてか頭から離れない。
けれど、その日旭先生と出会ったことで、この世界がほんの少しだけ生きやすくなった気がした。



