強引な無気力男子と女王子

 「教室、戻ろっか」
 「はい」
 いつまでもここにいるわけにはいかないし。
 私は個人的にはあの教室には戻りたくないけど。
 「ねぇ、真紘」
 「うわぁ!」
 突然声をかけられて振り向く。
 「なんでそんなに驚くの」
 「悠理が気配を消すからでしょうが!」
 「別に消してないけど」
 「消えてんの!」
 歩夢くんも悠理のいきなりの登場に目を白黒、口をパクパクしている。
 「それ、似合ってるよ」
 「あー、これ?クラスの女子に無理矢理着せられて・・・」
 「カッコいい」
 「・・・そう?」
 「あ、あの!」
 ずっと黙っていた歩夢くんが口を挟んだ。
 「僕、先に戻りますね!」
 「え、ちょっと待っ・・・!」
 それだけ言うと、歩夢くんは小走りに走っていってしまった。
 「・・・悠理、何かした?」
 「何も」
 だよねぇ・・・。
 何で走って行っちゃったんだろう。
 あ、もしかして男子に女装を見られたくなかったとか?
 思い当たるのはそれくらいしかない。
 「悠理?どうしたの?」
 悠理の顔が険しい。
 歩夢くんが行ってしまったほうを睨んでいるように見える。
 「真紘、あいつにあんまり近づかないで」
 「え、なんで」
 「なんでも」
 「なんでもじゃないわ!」
 「真紘は変なところで鈍感だから」
 「はぁ?」
 鈍感?私が?
 日葵じゃないんだから。
 「近づかないのは無理だよ。だって同じ文化祭実行委員なんだから」
 「じゃあ、それ以外では極力喋らないで」
 「・・・悠理?」
 なんだか、悠理の様子がおかしい。
 いや、男子と喋るなとか言うのは前もあったんだけど。
 言葉では言い表せないけど、なんだかいつもと違う。
 「真紘はアイツのところに行かないよね?」
 「悠理!」
 「俺から離れないよね?」
 「悠理、私の目を見て!」
 「・・・・・・っ!」
 悠理の顔を両手で挟んで、私は無理矢理悠理と目を合わせた。
 「・・・ごめん」
 「・・・・・・」
 やっぱり、おかしい。
 悠理はこんな簡単に謝ったりしない。
 謝ると、悠理は私から目を逸らした。
 私も手を離す。
 ・・・やっぱり、お母さんに遭ったから?
 悠理と悠理のお母さんの間に、何があったっていうの・・・?
 でも、今は聞けない。
 聞くべき時じゃない。
 「・・・じゃあ、私教室に戻るね・・・」
 「・・・うん」