強引な無気力男子と女王子

 「だから、『僕なんか』って自分を卑下するのは良くないと思う。すぐに謝るのもね」
 「えっとこれは・・・いじめられてた時の癖で」
 一瞬だけ辛そうな顔をした歩夢くんに「だ~か~ら~」って私は続けた。
 「もう今は違うじゃん、いじめられていた時と。そうやっていじめられていた過去に自分を縛り続けているのは歩夢くん本人だよ。もう前を向いて、歩き出そうよ」
 「前を向いて・・・」
 「これは私が言う事じゃないけど、なんなら歩夢くん眼鏡も外してコンタクトにしても良いと思うよ。素敵な顔してるし」
 あっ、偉そうになったかな。
 「もし、上から目線になってたらごめんね!」
 「プッ、アハハハ!」
 「・・・・・・へ?」
 歩夢くんは急に笑い出した。
 訳もわからず私はポカン、と口を開いたまま固まる。
 「柳井さん、面白いですね。僕には『謝るな』って言いながら自分は謝るなんて」
 「あっ、そういえばそうだね」
 笑った歩夢くんの顔は素敵で、根は暗くない子なんだと思う。
 ただ、いじめられていたせいで自分に自信が持てなかっただけで。
 「柳井さん」
 「何?」
 「これで、柳井さんに救ってもらったの二回目です」
 「え?」
 一回目なんてあったの?
 私が歩夢くんとまともに話したの、つい最近のことだし。
 全然心当たりがない。
 「柳井さんは覚えていないかもしれないんですけど、中学生のとき僕路地裏でいじめられていたときがあって。そのとき、柳井さんが僕をいじめていた不良グループから僕を助けてくれたんです」
 「あー・・・、そんなこともあった気がしなくもない・・・」
 確か中学生のとき、路地裏で一人の男の子がガラの悪い男子に囲まれていて・・・。
 暴力を振るわれたり、金をたかられたりしていて・・・。
 咄嗟に『お巡りさん、こっちです!』って叫んだんだっけ。
 「あのときの男の子が・・・歩夢くん?」
 「はい。あの時はお礼が言えなくて、後悔していたんです。でも、奇跡的に同じ高校で、しかも同じクラスで。お礼を早く言おうと思ったんだけど、柳井さんは大人気で、なかなか機会がなくて・・・。本当に、ありがとうございました!」
 バッと音が鳴りそうなぐらい勢いよく、深いお辞儀を歩夢くんはした。
 「そんな大したことはしてないよ。無事だったんならよかった」
 「・・・はい!」
 歩夢くんのはにかんだ笑顔は、やっぱり素敵だ。