強引な無気力男子と女王子

 そんな歩夢くんの様子に、私はますます困惑する。
 「どうして?」
 「僕の容姿って、ちょっと女の子っぽいらしくて。それで小さい頃はよくいじめられていたんです。それがトラウマで、目が悪くなったのをいい機会に眼鏡をかけて自分の顔を隠して。やっといじめられなくなったんです。だから、お願いします!」
 ちょっと女の子っぽいかぁ・・・。
 自分の容姿にあまり自覚がないみたい。
 結構な美少女だったよ?とは言わないで「わかった。誰にも言わないよ」とだけ言っておく。
 それを聞いて歩夢くんは心底安心したように「ありがとうございます!」とお辞儀をした。
 「柳井さんなら、そう言ってくれるかなって思っていたんです」
 「え?」
 「だって、柳井さんと僕ってなんだか似ている気がして」
 ・・・なんとなくわかる気がする。
 私たちは、似ている。
 男子みたいな女子。
 女子みたいな男子。
 一緒だ。
 私たちは、そのせいで傷ついた過去を持っている。
 「あっ、失礼だし、生意気でしたよね。ごめんなさい」
 「ううん。大丈夫だよ」
 私が急に黙ったことを機嫌が悪くなったと思ったのか、歩夢くんはまた謝った。 
 「僕なんかが柳井さんと似ているなんて、おこがましいにもほどがありますよね」
 「・・・お節介かもしれないけどね。『僕なんか』って、止めたら良いと思うよ」
 「え?」
 気づいたら、私はそう口にしていた。
 「歩夢くんはもっと自信を持っていいと思う。それだけのものを持っているし」
 「そんな、何も僕は持っていませんよ」
 「そんなことない」
 まっすぐ歩夢くんを見据える。
 歩夢くんは心当たりがないようで、不思議そうな表情をしていた。
 「だって、面倒くさい実行委員を引き受けてくれたでしょう?歩夢くんが手を挙げなかったら、きっと誰も立候補なんてしなかったと思うし。歩夢くんは優しいし、それは人に誇っていいことだと思うよ」
 「・・・それは、柳井さんが実行委員になったからであって」
 「え?何か言った?」
 よく聞き取れなかった。
 聞き返すと歩夢くんは「いえっ、なんでもないです!」と胸の前でぶんぶん両手を振って答えることを拒んだ。
 どうしたんだろう?
 「・・・僕って、優しいですかね」
 「うん」
 話を本題に戻した歩夢くんにしっかり頷く。
 歩夢くんは照れくさそうに笑って下を向いた。