強引な無気力男子と女王子

 「行かないで」って言われたけど、手を離したら悠理のほうがどこかに行っちゃいそうだったんだ。
 悠理と悠理のお母さんの間に何があったのかはわからないけど。
 いつか話してくれるまで待ってる。
 悠理がそうしてくれたように。
 私も、待ってるから。
 私はもう一度、強く強く悠理を抱きしめた。

 「やばい、カッコいい・・・」
 「次こっち着てみて!」
 「えー、こっちが先だよ!」
 「順番に着るから、落ち着いてね」
 文化祭の準備中。
 私は教室の真ん中で女子たちに囲まれていた。
 どうやら、女の子たちの間で話し合った結果、どのコスプレを私にやらせるか最後まで決まらなかったみたいで。
 「もう、希望出ているやつ全部やってもらえばいいじゃん」という方向で話が固まってしまったせいで、私は一日に何着ものコスプレをする羽目になってしまった。
 一着一着、衣装を作る係の女の子に手渡されて更衣室で着替えてきて、教室でお披露目して。
 そんな作業をひたすら繰り返していた。
 いい加減、疲れてきたな・・・。
 教室から、吸血鬼のコスプレを持って更衣室まで歩く。
 そういえば、学校で私と悠理が付き合っているっていう噂は意外にも全く流れていなかった。
 まぁ、聞いたのが奥江さんと歩夢くんだけだったからかな。
 歩夢くんは、多分そんなにおしゃべりな子じゃないと思うし。
 奥江さんは・・・誰にも言えないんじゃないかな。
 もし、私が奥江さんの立場だったら好きな人が他の女子と付き合ってるなんて話、他の人に絶対に出来ないし。
 きっと奥江さんもそうだったんだろう。
 私としては、変に注目を集めないで済んだから嬉しいけど。
 更衣室は無人だった。
 急いで衣装に着替える。
 私、さっきから衣装合わせばっかりで全然内装とか、メニューとかの準備に参加できてないんだよね。
 クラスメイトの皆に申し訳なさすぎる。
 女子更衣室から出ると、男子更衣室から出てきたアリスのコスプレをした生徒とぶつかった。
 多分、同じクラスの子だろう。
 相手が私よりも小柄だったせいで、相手だけ尻もちをついてしまう。
 「ごめん!大丈夫?」
 「はい・・・。えっと、僕の眼鏡・・・」
 転倒した際に外れたのだろう。
 アリスの子は手探りで眼鏡を探す。
 「これ?」
 「あ、それです・・・」
 足元に落ちていた眼鏡を拾ってしゃがんだままの目の前の男子に渡す。