強引な無気力男子と女王子

 「真紘?」
 虚ろな千晴くんとバッチリ目が合う。
 「千晴くん、何かあった?なんか、様子がいつもと違うっていうか・・・」
 「・・・やっぱり、わかる?」
 「うん」
 私の答えを聞いて、千晴くんはまた海のほうを眺める。
 千晴くんの瞳が、誰のことを見ているのかすぐにわかってしまう。
 「・・・棗さん?」
 私のつぶやきは、海に消えていく。
 ザザーン、ザザーンという波が押し寄せる音と、龍羽や棗さん、一さん、香くんのいつもより少しだけはしゃいだ声だけが、聞こえる。
 ・・・悠理は、プカプカ波に浮かんでる。
 何をやっているんだ。
 もしかして、寝てるとか?
 ありえるな。
 「真紘と悠理は、どうやって付き合ったの?」
 「え?」
 千晴くんの、本当に小さな声が聞こえて私はまた隣を向く。
 「あっ、ごめん変なこと聞いて。嫌なら答えなくていいから」
 「うーん、私はその、人と交際するっていうのが怖くて。悠理はぶつかって来てくれたのにそれでも相手のことが信じられなくて、すれ違ってばかりで。大事な友だちに背中を押してもらって、自分のことを全部悠理に伝えて。それでも悠理は醜い私のことを受け止めてくれて、それが嬉しかったんだ」
 「・・・そっか」
 「うん」
 また、二人の間に静かな空間が広がる。
 もう一度、千晴くんのことを見ると、何かを言おうとして、でもためらってやめて、というのを繰り返しているように見えた。
 「・・・無理して言わなくていいからね」
 「ありがとう。・・・真紘、僕、今日棗に告白をしようと思ってるんだ」
 決心したように口を開く千晴くんを、私は黙って見つめる。
 「たとえ振られてもいい。でも・・・思いを伝えずに後悔したまま終わるなんて、嫌だから」
 「千晴くん、頑張れ」
 「うん」
 「いけると思うよ」とか「きっと大丈夫」なんて言葉は簡単には言えない。
 千晴くんもそういうことを言ってほしくて、私にこの話をしたんじゃないだろう。
 千晴くんが私にこの話をしたのは、私に話を聞いてほしかったんじゃなくて自分の意志を固めるため。
 私じゃなくて、龍羽がここにいれば龍羽に、香くんがいれば香くんに千晴くんは話したんだと思う。
 千晴くんの気持ちをバカにしたり、からかったり、軽蔑したりする人はここにはいないから。
 でも、何か言いたくて、「頑張れ」とだけ伝えた。
 私の応援を聞いて笑った千晴くんの笑顔は、この世で一番きれいな輝いてる笑顔に見えた。