そう言って悠理は不敵に笑う。
 い、嫌な予感‥‥‥。
 「なんで近づいてくるの?」
 「近づかないと出来ないじゃん」
 だから何を‥‥‥。
 背中がトン、と壁に当たる。
 しまった‥‥‥!
 「捕まえた」
 悠理が私を囲うように壁に手をつく。
 邪魔なんだけど。
 「どいて」
 「やだ」
 「どいて」
 「やだ」
 「どいt‥‥‥」
 3回目で、私の口は悠理によって塞がれてしまった。
 「ん、ん〜‥‥‥!」
 深くて長いキスに、息が続かない。
 せめてもの抵抗で、意外にもしっかりした悠理の胸板をドンドン叩く。
 それでも悠理は離れない。
 どれぐらいの時間が経っただろうか。
 きっと15秒もなかったけど、私には5分ぐらいに感じた。
 やっと悠理が離れていく。

【悠理side】
 ハア、ハアと肩で息をしてへたり込んだ真紘を見下ろす。
 「なに、するの」
 キッと真紘は俺を睨むけど、涙目なのと顔が真っ赤なので全然迫力がない。
 むしろ、上目遣いになっていて、可愛い。
 本人は今自分が上目遣いをしているなんて微塵も思っていないんだろうけど。
 「真紘って、キス弱いよね」
 「は、はぁ!?そんなわけないじゃん!」
 顔を離すときに見えた真紘の顔は普段の冷静さなんてカケラもなくて、理性が吹っ飛びそうになった。
 いや、吹っ飛んだからキスしたんだけど。
 現に、今もへたり込んだままだ。
 「真紘、今自分がどんな顔してるかわかってる?」
 「え‥‥‥」
 俺は、そろそろ真紘の上目遣いに耐えられなくなって真紘と同じ目線までしゃがむ。
 そして、耳元で囁いた。
 「俺とのキスが、超気持ち良くて仕方がないって顔してる」
 その一言で、また真紘の顔は赤く染まる。
 「なななななななな!」
 そして、意味がわからない言葉を連発する。
 「真紘ってさ、俺が誰かと付き合ったら嫌なんだよね?」
 「そんなこと‥‥‥!」
 慌てて否定する姿も、なんだか愛おしく見える。
 だから、俺は真紘にこう言った。
 「ねぇ、俺と付き合お?」
 ‥‥‥真紘の反応がない。
 さすがに不安になって、俺は真紘の顔を覗き込んだ。
 それを見て、俺は少なからず戸惑った。
 真紘は俺が予想もしていない反応をしていた。
 「い、今、なんて‥‥‥」
 呆然とそう言う真紘の顔はもう真っ赤なんかじゃなくて。
 代わりに真っ青になっていた。