「悠、理‥‥‥?何してるの‥‥‥?」
 「消毒」
 消毒って、どういうこと?
 「アイツらに汚い手で触られたから」
 何故か、悠理からは答えが返ってくる。
 読心術でもあるの?
 「だって真紘、全部口に出してるし」
 「え!?」
 反射的に口を覆う。
 「読心術とか、心得てないから」
 「‥‥‥‥‥‥」
 真顔で返されて、羞恥で顔が赤く染まっていくのが自分でもわかる。
 「‥‥‥真紘、震えてる」
 「‥‥‥寒いからだよ」
 今は7月の初旬。
 夏だけど、山のほう、そして夜ということもあり辺りは冷え込んでいる。
 そんな中でジャージを脱いだんだから、寒くて震えるに決まってる。
 そういうことにする。
 「怪我とかしてない?」
 「してない」
 「もうこれからは、俺から離れないで」
 そういって悠理は私の目を見つめる。
 いつもとは違って真剣なその目から目が離せなくて。
 時が止まったかのように、沈黙が続いた。
 ‥‥‥って、無理無理。
 悠理から離れないとか。
 「無理だよ」
 そう言おうとした私の口は、悠理の口によって塞がれた。
 悠理の顔がドアップになったと思ったら、また遠くなる。
 「え、何して‥‥‥」
 その続きの言葉は私の口から出ることはなく、またしても悠理の口が私の口を塞ぐ。
 ただ、さっきの触れるだけのキスとは違って今度は深い、長い、甘いキス。
 私はそんな口付けの中で、意識を失った。

 「ん、眩し‥‥‥」
 目を開けるとそこは見慣れない天井で。
 私はベッドに寝ていて。
 そしてすぐ、私の視界はよく知った顔の影によって暗くなる。
 「真紘〜!起きた!」
 「ひま、り‥‥‥?」
 日葵の顔は今にも泣き出しそうだ。
 「どうしたの?」
 上半身だけ起こして、日葵に尋ねる。
 「どうしたのじゃないよ、バカッ!どれだけ心配したと思ってるの!」
 「ああ、そう言えば私、さっき‥‥‥。日葵、今何時?」
 「次の日の、午前10時だよ!」
 私、そんなに眠ってたんだ。
 「あれ?だったらなんで日葵、ここにいるの?」
 確か合宿のしおりに書いてあった予定表によると、今はお昼ご飯のバーベキューの準備の時間のはずだ。
 「なかなか起きない真紘が心配で、相澤くんと狭川くんにバーベキューの用意をしてもらってるの!」
 「そうだったんだ‥‥‥」
 2人には悪いことをした。
 「何があったの!?」
 「え、え〜と‥‥‥。どうしても言わなきゃダメ?」
 日葵に余計な心配かけたくないから、言いたくないんだけど。
 「言って!」
 「‥‥‥わかった」
 凄い形相の日葵に詰め寄られて、私はとうとう昨日のことを話した。