「え!?もしかして柳井真紘くん!?」
 ‥‥‥くん付けですか。
 くんを付けた事にはあえて触れないでおこう。
 「そうです」
 ニコ、と百点満点の笑顔を向ける。
 その女は顔を赤らめて、小さく歓声を上げる。
 リボンの色から見るに一つ先輩だろう。
 先輩までに絡まれるとは、瀬戸悠理も苦労してるんだな‥‥‥。
 しかし私に声を掛けられただけで歓声を上げるなんて‥‥‥。
 やはりこの女は顔しか見てないのだろう。
 先輩の歓声に気がついたのか、周りの女子もこちらを見だす。
 「女王子じゃない!」
 「W王子を一度に見られるなんて‥‥‥」
 「やっぱりイケメーン!」
 おい、W王子って何だよ?
 そもそも私は女王子って呼ばれることを許可した覚えはないぞ?
 などなど、色んな言いたいことはあるけどなんとか飲み込む。
 上手くこっちに意識が向いたようだ。
 よかったよかった。
 誰にもバレないようにほっと安堵の溜め息をつく。
 「何か先輩に用事?どうしたの?」
 「歩いてたら綺麗な人達がいるなって気になっちゃって。つい声を掛けちゃいました」
 微塵も思ってないことを適当に喋る。
 先輩達に笑顔を向けながら目だけ瀬戸悠理にやる。
 瀬戸悠理は驚いた顔をして私を見ていた。
 そんな瀬戸悠理に目だけでどこかに行け、逃げろと伝える。
 瀬戸悠理はやっと我に返ったらしく、目で良いのか?と訴る。
 私は瀬戸悠理にいいから行け!と目で返事をしたら、瀬戸悠理はやっと廊下の向こう側に歩いて行った。
 瀬戸悠理の姿が見えなくなったことを確認してから先輩達に向き直る。
 「すみません、もう少しお話ししたいのは山々なんですが、次の授業に遅れてしまうので失礼します」
 「えーーーー!!!」
 「ざんねーん!!」
 「また声かけてねーーー!!」
 誰が掛けるか。
 顔も覚えてないし。
 あー、顔が疲れた。
 スタスタと化学室まで早歩きをする。
 しかし間に合わなかったらしく、途中でチャイムが鳴ってしまう。
 ヤッバ‥‥‥!!
 今でも充分早歩きだったけど、更に歩くスピードを早める。

 ガラガラっと化学室のドアを開く。
 「すみません、遅れました」
 部屋に入るなり謝る。
 「宮代さんに事情は聞いたわ。災難だったわね。早く席につきなさい」
 化学の上原先生が静かに言う。
 日葵、グッジョブ!
 日葵の方を見るとヒラヒラと手を振ってる。
 それでも遅れてることに変わりわないので急いで席につく。