そこには、さっきまで眠っていたはずの瀬戸悠理が立っていた。
 眠たいのか目がとろん、としている。
 髪が少し跳ねて可愛らしい。
 ガラにもなくそんなことを思う。
 「あの、何か?」
 まさか理由もなく引っ張ったとか言わないよね?
 結構痛かったし。
 「‥‥‥‥‥‥」
 私が恨めしげに見上げるも、瀬戸悠理は無反応。
 本当に何なんだ。
 「‥‥‥‥‥‥」
 「‥‥‥‥‥‥」
 双方何も言わないまま、時間がすぎる。
 「あの‥‥‥」
 「ねぇ連音、コイツモデルとして撮らねぇの?」
 私が沈黙に耐えきれず発した言葉は瀬戸悠理の声でかき消えた。
 なんとも的外れな疑問だ。
 あなたは今まで何を聞いていたのか。
 あ、寝てたんだっけ。
 「別に女ってこと隠してモデルやればよくね?」
 ぬ、起きていたのか。
 「ああ、そういう手もあるか」
 連音さんが名案だ、というように手をポン、と打つ。
 「そうしよう」
 「え?」
 あまりに展開が速すぎて思わず聞き返す。
 「男として、撮影に参加してもらおう」
 本気ですか?
 いや、でも今更だけどあんまりモデルやるの気が進まないんだよなあ。
 私の微妙な空気を感じとったのか、連音さんは顔をこちらに向けて
 「いいよねぇ?」
と怪しく微笑んだ。
 笑顔が怖い。
 やっぱり腹黒だっ!
 「どうする?」
 「‥‥‥はい」
 結局、私は二回目の断るチャンスも逃してしまった。
 そんな自分を恨みたい。
 私のバカッ!
 本日二回目。