そもそもなんで、と言われても理由なんてないし、まさか何も持たずに家を飛び出してきた、なんて説明もできない。



「私も同じこと思ってます」
「なんとなく」

「じゃあ、私もなんとなくです」
「ふうん」




興味なさそうにつぶやいて、空を仰いだ。この人が動くたびにシトラスの香りが鼻をくすぐって、見た目は怖いけれど、恐怖は微塵もなかった。

まだ何もしてこないからというか、何かしてくる気はないのだろう、って助けてもらったのに不躾なことを考えていた自分に罪悪感が残った。



危うく落ちるところだった。本当に今日は自分でも驚く行動ばかりで、優等生を誇る私が深夜徘徊だなんてとんでもない。




「あの、助けてくれてありがとうございました……」
「ここからの景色最高だと思わねえ?」