「っ、あぶねえ」
とても強い力で誰かに手を引っ張られて、気づいたときには誰かの胸板に頭がぶつかっていた。ふわっと鼻をかすめたのは、シトラスの香りだった。
あたたかいものに包まれている顔を上げて、目の前を見つめると、はっとなって、肩がビクッと震えた。
闇に包まれた世界で浮かび上がっているのは男の人で、冷たいひとみが私を見つめていて、私も驚きながらも見つめ返す。
私より20センチ以上も高い位置に頭があって、片手が私の手に添えられていて、もう片方の手が私の背中に添えられていた。
あたたかいと思って、状況を理解した私は、はっとなって体を離す。「あ、……あ」と区切れの悪い声が静寂の中に溶け込んでいく。
神秘的な出会いだと感じたのは私の頭が冴えていないからだろうか。



