朝の街を 冷房の効いた タクシーは 走り抜ける。

俺は ただ ぼんやりと 車窓を 眺め続けた。



カンナからは 時々 電話があった。

『奏斗。久しぶり。元気?』

『ああ。元気だよ。カンナは?』

『私は あんまり元気じゃない。昨日 彼氏と別れたから。』

『へぇ。今度の彼とは 上手くいってるって 言ってたのに?』

『それがさぁ。彼氏 束縛が酷くって。私 友達と ご飯も行けないんだよ?もう ウンザリ。』

『そうか…大変だなぁ。』

『奏斗は?今 彼女いるの?』

『一応ね。』

『へぇ。頑張ってね。』


カンナの電話の 目的が 何か わからなくても

俺は それを 拒否することが できなかった。


カンナに聞かれて 彼女が いない時でも

” 彼女がいる ” って 答えることが

俺の 精一杯の 反撃だった…


カンナは いつも 自分から フッたように言うけど。

多分 カンナが フラれていたと思う。


カンナの 耳障りな声は 

どんなに 上手いことを言っても

幸せじゃないって わかる。


カンナが どんなつもりで 何を考えて 

俺に 電話をしていたのかは わからないけど。