「……でも、それでは……」

「大丈夫。私にお任せ下さい」

 木崎は優しく微笑むと、ワイングラスを傾けた。

 断るタイミングを失い、どうすればいいのか戸惑う。

 食事のあと、木崎はタクシーを予約し、私達は店の前でタクシーを待つ。

「あの……木崎さん。やはり私はここで……」

 意を決して口を開いた時、背後から男性に声を掛けられた。その声は、聞き覚えのある声だった。

「雨宮さん、偶然ですね」

「……ひ、日向さん。こんばんは」

 木崎の視線が私に向く。
 さっきまでの和やかな雰囲気が一瞬にして変わった。

「同じ職場の……日向さんです」

「花菜菱デパートの?はじめまして木崎と申します」

「はじめまして。雨宮さんが交際されている方ですか?」

「……ぇっ」

 唐突な質問に、思わず言葉に詰まる。

「君は随分不躾だね。その口調はまだ社会人になったばかりなのかな?雨宮さんのプライベートに口を挟むとは、失礼だよ」

 木崎に窘められ日向は少しムッとしたが、すぐに謝罪をした。

「プライベートなことに口を挟み、すみませんでした」

「いいえ……」

「雨宮さん行きましょう。コンサートに行く前にブティックに立ち寄り、ドレスをプレゼントします」

「……木崎さんそれは」

 日向の視線から逃れるために、私は到着したタクシーに乗り込んだ。

 日向はそれ以上何も語らず、私に会釈した。その眼差しに、何故か心が痛んだ。