「まだ行ってない。実は……、あれから何回かケータイに電話があったんだ」

「まじで?それでどうしたの?」

「着歴見たら、あの日名刺をくれた人達だった。その中に彼の電話番号もあったんだ」

「やだ、留空、望月さんにかけなかったの?」

「だって、何を話せばいいのかわからないし。あの日の私は本当の私じゃない。幻滅させるだけだよ」

 陽乃は呆れたように留空を見つめた。

「相変わらずネガティブね。デートの日に美容室でヘアメイクしてもらえばいいじゃない。洋服なら私の貸すわよ」

 陽乃の私服は派手でセクシー。留空とは身長もプロポーションも異なる。洋服のサイズが合うわけがない。

「私、陽乃みたいに身長ないし」

「身長はハイヒールで誤魔化せばいいのよ。胸はパットで嵩増《かさま》しすればいいの」

 引っ込み思案な留空のお尻を陽乃は容赦なく叩く。

「陽乃、自分を偽ると留空も息切れしちゃうよ。ありのままを受け入れてくれる人が一番なんだよ」

「美空、そもそもありのままってなに?女は着飾って値打ちが出るの。セレブな男なんて、女をアクセサリーとしか思っていないんだからさ。それに応じてあげないと。どうせアクセサリーになるなら、ガラス玉より宝石がいいに決まってるでしょう」

「それは陽乃の周りにいる男でしょう。留空、陽乃に惑わされなくていいよ。ありのままで勝負しな」

 留空は二人の板挟みになり、段々俯き加減になる。

「ほら、休憩時間なんだから、もう止めよう」

「柚葉はいつも優等生ね。優等生ぶってると、本当の恋なんて出来ないよ。ベッドの中で優等生な女なんて、つまらないもの」

「……っ、陽乃。ここは社員食堂だよ。場をわきまえて」

「クスッ、もしかして図星?優等生さん慌ててる」