山川にビールを勧められ、一気に飲み干す。

「虹原さんとの仲を取り持ってくれた雨宮さんには、本当に感謝してます。遠距離恋愛頑張ります」

 そんなことわざわざ報告しなくていい。
 もう私には関係ない。

「雨宮さんにだけこっそり教えますね。実はこのあと二人だけでデートする予定なんです」

「……そう。想いが通じて良かったね」

「勢いで……泊まっちゃうかも。だって当分逢えないし、体の繋がりがないと男の人って浮気しそうですもんね。遠距離恋愛の保険みたいなものかな」

 体の繋がりが保険か……。
 しかも、こんな短期間で……。

 虹原と私の間に、元々そんなものはない。

 心と心が繋がっていれば、私はそれだけで幸せだった。

 でも男と女は違う生き物だ。
 いや、女だって陽乃みたいな肉食女子もいる。

 ――『松の惠』での歓送迎会を無事終え、数名は二次会へと流れた。山川は当然のように二次会に付いて行く。

「雨宮さんも行きましょうよ」

「私はちょっと飲み過ぎたみたい。酔いを冷ましながら帰るわ」

「そうですか?残念だなぁ」

 山川の甘ったるい声に背を向け、私は駅までの道のりを歩く。

 背後で、コツコツと靴音がした。
 その靴音は、路地を曲がってもついてくる。

 やだな……。
 不審者じゃないよね。

 少し早足に駅に向かうと、靴音も早足になる。明らかに私の後をついてくる。恐怖から身が竦んだ。

「もっとゆっくり歩きませんか?」

 背後から男性の声がした。
 落ち着いた声だ。

 ゆっくり振り向くと、そこには日向が立っていた。