「いいのかな」

「いいよ、彼らはもうすぐ退院だから動いてリハビリしないとね。それより雨宮さん、どうしてここに?」

 他人ごとのような口調に、死ぬほど心配していた自分が馬鹿らしくなると同時に、怒りがこみ上げる。

「昨日、帰りに事故に遭ったのかもしれないって、凄く心配で会社を早退して来たのに、笑ってるなんて信じらんない」

「俺が事故したと思ったの?仕事を放り出して病院に来てくれたんだ。俺が笑ってるより、昏睡状態の方が良かった?」

「……っ」

 ひねくれ者だな。
 誰もそんなこと言ってないし。

 どうして直ぐに電話してくれなかったのかって、言ってるのよ。

 感情を上手く言葉に出来ず、思わず口ごもる。日向の腕には点滴の管。日向は病人に変わりはないのに。

 面会謝絶とか、昏睡状態とか、そんな最悪なことばかり考えていたから、安堵したと同時に拍子抜けした。

「雨宮さん心配してくれてありがとう。昨夜、駅に向かう途中、激しい腹痛と嘔吐に襲われて動けなくなったんだ。通行人が救急車を呼んでくれて、この病院に搬送された」

「昨夜の……救急車のサイレンは日向さんだったのね」

「検査の結果急性虫垂炎とわかり、すぐに緊急手術を受けた。脇腹に慢性的な痛みは感じていたんだけど、まさか虫垂炎だとは思わなくて」

「昨日、家に来た時も調子悪かったの?」

「少しね、せっかくお母さんがご馳走を作って迎えてくれたし、お父さんにお酒を進められて、少し無理をした」

「馬鹿ね、正直に言えばいいのに」

「虫垂炎の前兆だなんて思わなかったから。緊急手術になり、誰にも電話出来なくて、倒れた弾みで携帯電話の画面が破損していて、操作出来なかったんだ。本当にごめん」

「……心配したんだからね」

「ごめん。反省してる。一番に連絡すべきは、部長ではなく雨宮さんだったね。でも自宅の電話番号も知らないし、社内恋愛禁止だから、雨宮さんに電話出来なかったんだよ」

「……無事で良かった」

 日向の手を握り、その温もりに胸が熱くなる。

「虫垂炎だし経過は良好。心配いらないよ」

 日向にもしものことがあれば、私はきっと半狂乱になっていた。

 日向は私にとって、とても大切な人なんだと、改めて認識した。

 この手を離したくないと……
 そう……思ったんだ。

 日向がどの道を選ぼうと、もう迷うことはない。

 私はその人の職業に恋をしたわけじゃない。日向陽に恋をしたんだ。

 日向と同じ人生を歩みたい。
 この人と一緒にいたい。

「どうしたの?まだ怒ってるの?」

「怒ってるよ。これからは、私を日向さんの一番にして下さい。何かあったら、私に一番に連絡して……」

「……雨宮さん」

 日向は少し驚いていたが、にっこり微笑み抱き締めてくれた。

「ずっと、柚葉が一番だよ」

「……うん」

 かけがえのないもの。
 それは……大切な人の温もり。

 この人と結婚したい……。
 心からそう思えた。