「日向さん……」

 テーブルの下で、ツンツンとスーツの端を引っ張る。

 日向はそれでも怯むことはない。

「仕事を続けると、家庭が疎かになる。柚葉の年齢を考えれば、家庭に収まり早く子供を産むことが優先だよ」

 相変わらず、古臭い。
 結婚した女性が、全員子供を産むとは限らない。

「お父さん、もう結婚の話はやめて。日向さんのプレッシャーになるでしょう。そんな話ばかりするなら、もう二度と連れて来ないからね」

 私の剣幕に、父が思わず黙り込む。

「そうだよ、お父さん。今時、共働き夫婦なんて珍しくないしね。私的にはデキ婚も学生結婚もアリだけどね」

 花織の言葉に、父の顔が険しくなり、頭に血が上り沸騰したヤカンみたいに赤くなる。

「ばかもん!」

 父の怒鳴り声に、日向が目を丸くした。花織は怒鳴られているのに、平然としている。

「デキ婚とか、学生結婚とか、そんなふしだらなことをしたら、勘当だからな!」

「感動?そうだよね、感動だよね。新たな命を授かるわけだから、お父さんも若い人の気持ち、わかってきたね」

 花織の言葉に日向は吹き出し、家族の醜態に私は顔を赤らめる。

「誰が感動と言った。《《勘当と感動》》の区別もつかないのか。一体大学で何を学んでるんだ!」

「感動は感動でしょう。お父さん煩い。『食事中は静かに食べなさい』っていつもいってるのは、お父さんでしょう。日向さんの前でカッコ悪いよ」

 確かにカッコ悪い。
 でもそれは花織もだからね。

「まぁまぁ、親子喧嘩はそれくらいにしなさい。日向さんごめんなさいね。うちはいつもこうなのよ。花織は素直で甘え上手で可愛い子だったのに、大学生になった途端反抗ばかり、困ったものね」