日向が突然過去を語り始める。

「父は親族の連帯保証人になり、多額の借金を背負い自己破産しました。母は借金の取り立て屋に暴行されたことが原因で亡くなり、父は自暴自棄となり酒に溺れ自殺しました」

「日向さん……。そこまで話さなくていいわ」

「両親が健在だった頃、家庭教師の派遣で、雨宮さんと知り合いました」

「柚葉が君の家庭教師をしていたと?」

「いえ、面談しただけですが、今の俺がこうしていられるのは、あの時雨宮さんに出逢ったからです。雨宮さんの言葉が、両親を失い絶望のどん底にいた自分を奮起させてくれました」

「そうか、君も若いのに苦労したんだね」

「雨宮さんにもう一度逢いたいと、ずっと思っていました。就活の時、企業説明会で偶然雨宮さんを見掛けて……。花菜菱デパートの企業説明会で、雨宮さんは学生にパンフレットを配っていたんです」

「私が……?」

 総務部庶務課に配属される前は、人事部だったことをふと思い出す。

 企業説明会で……
 学生だった日向と逢っていたなんて……。

「内定が決まり、当初は大阪店勤務でしたが、転勤希望が叶い本社に異動となり、偶然にも雨宮さんと同じ部署に配属されました。雨宮さんは俺には気付かなかったけど、それでも一緒に働けることが嬉しかったです」

「そうですか。娘とそんなことが……。それで本日のご用件は?」

「雨宮柚葉さんと真剣にお付き合いしたいと思っています。そのお許しをご両親からいただきたくて、夜分遅くに押し掛けてしまいました」

「柚葉と交際?君は柚葉よりも年下だよな」

「はい」

 父が私に視線を向けた。

 動揺した私は思わず視線を逸らす。

 私が交際をOKしていないのに、どうして両親に先に話すの?

 その神経、疑っちゃうよ。

「柚葉はどうなんだ?彼と付き合う気はあるのか?」

 両親の視線と、日向の視線を浴びながら、それでも返答に困っていると、私より先に日向が口を開いた。

「雨宮さんからはまだ正式なお返事はいただいていません。まだ俺の片想いです」

「片想い!?」

 両親が顔を見合せている。

 成り行きとはいえ、日向と私は一夜を共にしたことがある。さっきもキスを交わした……。

 日向に片想いだと断言されたら、それはそれで少し違う気もするし、自分自身がとても狡い人間に思える。

「君はおもしろいな。柚葉に片想いしているのに、いきなり私達に交際を申し込むとは」

「ご両親に認められないと、雨宮さんは俺を受け入れてくれないと思ったので」

 この状況を回避するためには、この申し出を拒否するのが妥当か、認めることか妥当か……。

 両親の性格を理解した上で、私は単にこの場を切り抜けるために、重い口を開いた。