「木崎さん、ご心配をお掛けしました。もう大丈夫です」

『それなら良かった。電話するのは迷惑かなとも思いましたが、職業柄気になってしまい申し訳ありません』

「いえ、お気遣いありがとうございます」

『口下手ですみません。勢いで電話したものの何を話せばいいか……』

 正直な木崎に、頑なな心がほどけていく。視界にはバルコニーに取り残されたビールの空き缶。

『望月と本平さんが交際していることご存知ですか?』

「……はい」

『望月は結婚前提にと考えているようです。あっ……これはまだ本平さんには言わないで下さい。きっと自分から告白すると思うので……』

 望月が留空と結婚前提!?留空とのことは本気だったんだ。

 良かった……。
 本当に……良かった。

『雨宮さん、私と結婚前提でお付き合いしてもらえませんか?』

「……ぇっ」

『何度も断られているのにすみません。しつこいですよね』

「……こんな私のことを想って下さり、ありがとうございます。私……以前付き合っている人がいました。その人との交際がトラウマになってて、男性と付き合うことが怖いんです。私は留空みたいに純粋じゃない。木崎さんは私を誤解しています。ガッカリしたでしょう」

『雨宮さん、少しお酒に酔っていますね』

「……酔ってます。酔った勢いで話してます」

『私も三十四歳の大人です。過去に恋愛経験もあります。婚約解消という苦い経験もある。雨宮さんの恋愛も、過去のことでしょう。過去はもう忘れていいんですよ』

 過去はもう……忘れていいの?

 木崎にも婚約解消の辛い過去がある?
 私の心の傷を知っても、まだ私と付き合いたいと……?

「木崎さん、ありがとう。結婚前提というわけにはいきませんが……。友達でよければ……」