記憶シュレッダー

一瞬にして呼吸が止まった。


光っている刃から目をそらすことができない。


一旦立ち止まった男がまたこちらへ向けて歩き始めた。


その距離、3メートルほどしかない。


男のキュッキュッという足音が脳内にまでこだまする。


「あ……あ……」


悲鳴を上げたいのに、恐怖で声が出てこない。


肝心な時にはなにもできないのだと、初めて知った。


男が口元を歪めて笑った、その時だった。


今まで少しも動かなかった足が自然と動いたのだ。


そのままの勢いで角を曲がり、伯母さんの家まで走る。


幸いにも電気がついていて玄関のドアノブを握ると鍵もかかっていなかった。


男がすぐ後ろに迫ってあたしに手を伸ばす中、どうにか伯母さんの家に逃げ込むことに成功したのだった。