記憶シュレッダー

呼吸が乱れて、今にも倒れてしまいそうだ。


早くこの場から逃げ出さないといけないと、頭ではわかっている。


それなのに焦るばかりで体はちっとも動こうとしてくれなかった。


それ所か、あたしは立ち止まったまま振り向いていたのだ。


一体そこに誰がいるのか。


誰があたしの後を付けてきているのか。


それを確認しようとしてしまった。


その、瞬間。


見知らぬ男と視線がぶつかった。


男は黒いTシャツに黒いズボン。


そして黒い帽子を深く被っていて顔の半分が見えない状態だった。


視線を男の手元へ落した瞬間、心臓が止まるかと思った。


男の手にはギラリと光るナイフが握られていたのだ。


しかもそれは決して落としたりしないように、しっかりとガムテープで手首に固定されているのだ。


その切っ先はあたしへと向けられている。