記憶シュレッダー

「ちょっとやめてよ、怖いじゃん！」


蒔絵は自分の体を抱きしめてわざとらしく怖がっている。


「でも、本当に聞こえたんだもん」


由香里に言われてあたしはハッとした。


そういえば、あたしのこの部屋の中で声を聞いたことがあるかもしれない。


でも、どんな声だっけ……？


思いだそうとしても、なかなか思い出すことができない。


まるで、記憶にフィルターを掛けられているような、気持ちの悪い感覚だった。


あたしは由香里の前に立ち、ドアを開けた。


なにも変わらない祖父の部屋が現れる。


電気を付けて中へ入ってみても、当然だけど誰の姿もなかった。


ホッとすると同時に、なにか強く惹きつけられる雰囲気を感じて足を部屋の奥へと進める。


その時だった。


「嫌なことはぜ～んぶ忘れちゃえばいいんだよ！」


子供の声が聞こえてきて悲鳴を上げそうになった。