「嫌なことはぜ~んぶ忘れちゃえばいいんだよ!」


どこからかそんな声が聞こえてきて、あたしは立ち止まった。


「え……?」


部屋の中をグルリと見回してみるが、あたし以外に誰もいない。


ラジオのスイッチも消えているし、音が出るようなものはどこにもない。


声はやけに幼くて、はしゃぐような声色をしていた。


そんな知り合い、あたしにはいない。


「気のせいかな……?」


きっとそうだ。


色々と混乱していて、変な声が聞こえただけだ。


そう思う反面、さっきの声が耳から離れなかった。


嫌なことは全部忘れちゃえばいい。


誰だって思うことだろう。


あたしだって忘れたいことは沢山ある。