目を閉じるという行為をする間は無かった。

片岡くんの香りがする。
テレビから聞こえる笑い声が酷く遠く聞こえる。

2人きりのリビングで、私と彼の温度が音もなく重なった。




「………、なに、すんの?」

「好きでもないやつにファーストキス奪われたら泣くかなって」

「そんなんで泣かない」

「ファーストキスは否定しないんだ」

「……、」

「ふ。ケートちゃん、時々可愛いとこもあるよね」



片岡くんは私の手首から手を離し、「チカちゃんそろそろ戻ってくるかな」なんて言いながら身体を起こしてソファに座り直した。