「面倒ごとは私も嫌い」
「へえ。気が合うじゃん。じゃあ、俺の言ってる意味わかるっしょ」
学年一の爽やか王子は、全然噂通りの人じゃない。
片岡くんが一歩前に出た。
つられて私は後ずさる。
トン…と、背中に当たった壁が、私に逃げ場がないことを知らせている。
…いや、別に逃げる気なんてさらさらないんだけど。
ちゃんと話をつけて堂々と開放してもらう予定なんだけど。
「…ねえ、近いから離れてよ」
「俺のこと誰にも言わないって約束してくれるなら離れる」
「だから、さっきからそういってるじゃん」
「言ってねーだろ。おまえ、記憶力平気?」
全然平気。
一昨日の晩御飯のメニューまでちゃんと言える。
ルーが甘辛と中辛のミックスになった、お母さんが作るカレーだ。
けれど多分、これを言ったら王子──じゃなくて腹黒王子に怒られるような気がするから言わないでおくことにする。



