ーーガチャ、

玄関のドアが開いた音に 心臓が音を立てた。「ただいま」と、閉まったドアの向こうから声が聞こえる。


やっと帰ってきたみたいだ。嬉しくてこのまま走って彼の胸に飛び込みたい。


立ち上がろうとした時に ハッと我に返り、(私はそんなに可愛い女の子じゃないし​キャラじゃない)と思い返して留まった。


そうしているうちにカチャ……とリビングのドアが開いた。



「 ただいま。遅くなってごめん」

「…、おかえり」

「電車遅延してて。連絡しようと思ったんだけど充電切れで」



申し訳なさそうに眉を下げ、「ごめんね」ともう一度謝った片岡くん。


優しい声色。嘘なんかついてないって分かる。

本当に電車が止まっていて、充電切れだったんだ。タイミングが悪かっただけ。誰も悪くない。責めることもできない。



だけどやっぱり寂しかったのは事実で、こんなにも片岡くんの帰りをまちわびていたくせに いざ帰って来た彼には「おかえり、会いたかったよ」って素直に言えない自分が嫌だ。



ああ、ヤダヤダ。
私、すごいめんどくさい女じゃんか。