ぜんぶ、しらないふり。






「あ、電話……ママ?なんだろ、ちょっと外出てくる」

「うん」


突然鳴ったメイナのスマホ。
母親から電話が来たらしい。

「もしもし?」と言いながら、彼女はお店の外に出ていってしまった。



メイナがいなくなったことで開けた視界。

お手洗いにでも行ったのか、彼女の姿はなく、ひとりでスマホをいじる片岡くんだけがそこにいた。


タイミング悪くスマホから目を話した片岡くんと、
────バチ、と目が合った。




「あれ、涼風さん。偶然だね」

「はははそうだね」

「何その愛想笑い」




表向きの笑顔を向けられた。

悔しいほどに爽やかだ。
これがつくりものなんて、にわかには信じがたい。