ぜんぶ、しらないふり。






こころの中ではこんなにたくさん悪態をつけるのに、そのどれもが声にならない。


かろうじて睨みつけるも、効果は無いも同然だ。

「その顔、けっこーそそるかも」とか、またしてもきもちわるいことを言われた。




「っやめてください…っ!」

「反抗的だなーホント。そろそろ大人しくしろよ」

「やだ…っやめろってばっ!」




捕まれた手を振り払おうとしたとき、指先が男の顔に当たった。

爪がちょっと伸びていたせいで、切れてはいないものの、うっすら赤くひっかき傷のようなものをつけてしまった。



あああ……なんてこった、怒らせてしまった。




「ってぇなー…」

「っ、」

「おい、抑えとけ。この女暴れるぞ」

「おっけー」