ぜんぶ、しらないふり。





声が洩れた。

大きく手を振ってこちらに向かってくる、日野くんと同じように燕尾服を着た北村くん。固まって、そこから目が離せなかった。




「…まあ、結果オーライか」

「わ、あれが噂の会長の彼女…」



日野くんの声も、メイナの声も、私の耳には届かない。



北村くんの半歩後ろを歩く彼女。

サラサラの黒髪が靡く。
控えめで大人しそうな雰囲気だ。




「あ。涼風さんだ。随分物騒な恰好してんねー」

「…き、たむらくん、あの、」

「お?どした」

「その、後ろのかわいらしい方は、」

「うん。彼女。可愛いっしょ」




北村くんが笑う。

ぺこりと頭を下げた"彼女"が照れくさそうに笑った。