ボーダーライン。Neo【中】


「あ。集客アップを目的として、なんだけど。明日から路上ライブやれって言われた」

「路上……ライブ?」

「そ。歌を聴くために足を止める人を最低でも五十人作れって。結構ハードル高いから、不安なんだけど……」

 そう言いながら、彼は徐々に口元を緩めた。

「実はすげぇ楽しみなんだ」

「そっか」

 ーー檜の歌が不特定多数に聴かれるんだ。

 あのボーカルさんカッコいい、とかって。学生さんやOLさんにも注目されちゃうんだ。

 それでその内、告白されたりなんかして。今よりもっともっとモテちゃうんだ。

 なんか。嫌だな……。

 あたしは知らず知らず、暗い顔をしていたと思う。

 それを感づかれて、幸子、と不意に名前を呼ばれた。

「あ、え? ごめん、なに?」

 檜は心配そうに眉を下げた。

「ごめん。今でもあんま逢えてないのに。映画とか買い物とか。そういうデート出来ないの、嫌だよな?」

 あたしはしんみりと目を伏せた。

 確かに嫌と言えばそうだけど、出来るだけ目立つ行動は控えたい。

 だから部屋デートで、全然構わない。

「ううん、大丈夫」

「嘘つけ、全然大丈夫そうじゃないじゃん」

 そう言って頬にチュッ、とキスをされる。