「あ。集客アップを目的として、なんだけど。明日から路上ライブやれって言われた」
「路上……ライブ?」
「そ。歌を聴くために足を止める人を最低でも五十人作れって。結構ハードル高いから、不安なんだけど……」
そう言いながら、彼は徐々に口元を緩めた。
「実はすげぇ楽しみなんだ」
「そっか」
ーー檜の歌が不特定多数に聴かれるんだ。
あのボーカルさんカッコいい、とかって。学生さんやOLさんにも注目されちゃうんだ。
それでその内、告白されたりなんかして。今よりもっともっとモテちゃうんだ。
なんか。嫌だな……。
あたしは知らず知らず、暗い顔をしていたと思う。
それを感づかれて、幸子、と不意に名前を呼ばれた。
「あ、え? ごめん、なに?」
檜は心配そうに眉を下げた。
「ごめん。今でもあんま逢えてないのに。映画とか買い物とか。そういうデート出来ないの、嫌だよな?」
あたしはしんみりと目を伏せた。
確かに嫌と言えばそうだけど、出来るだけ目立つ行動は控えたい。
だから部屋デートで、全然構わない。
「ううん、大丈夫」
「嘘つけ、全然大丈夫そうじゃないじゃん」
そう言って頬にチュッ、とキスをされる。



