檜が好きだから、彼女と別れれば良いのになと希望を述べ、どっちみち結婚とは無縁だからと、あたしに不安を与えた。

 聞くと、上河さんは檜の所属する芸能事務所を運営する“社長の姪っ子”らしかった。

 檜が結婚する事など、社長が許すはずない、と断言していた。

「他に彼女さんの情報としては、最近指輪を貰った事しか知らなくて。恐らく七号の」

 ーーえ。

 心臓がドクンと揺れた。何でそんな事まで知ってるの、と喉元まで出かかる。

「前に檜くん、わたしの左手触って指輪の号数、訊いてきたんです。
多分、彼女さんと背格好とか手の大きさが似てるんだと思う」

 そう言って、あたしの左手付近に目を据えた。

「……え」

 あたしは動揺から声を上擦らせ、左手をぎゅっと握り締めた。しきりに瞬きまでしてしまう。

「……なんちゃって。“檜くんの彼女さん”って条件があまりにも揃ってるから、もしかしてって。つい思っちゃいました」

「え。ああ、そう…」

「でも有り得ないですよね? 教師と生徒が付き合うなんて」

 あたしはその意見に同意し、曖昧に言葉を濁した。

 あの子は危険だと直感で悟った。

 檜を手に入れるために、彼女と別れさせるつもりなのだと。