「あの記事書いた奴あたしの知りあいなんだけど。……って言っても雑誌が違うだけで同じ社内の人間なんだけど。
 この間用があって、その人の部署に行ったのね? で、たまたま聞いちゃったの」

「き、聞いちゃったって。何を?」

 デマだと聞いて動揺してはいけないと分かりつつ、あたしは不自然にその先を急かした。

 鼓動が少しずつ、早くなる。

「あのね? “たとえ真実じゃなくてもそれっぽく見えればいい”ってそう言ってたの」

「え?」

「簡単な話よ。
 女優さんが階段で転びそうになった所を、檜くんが受け止めたんだって。
 そこをシャッターチャンス!  とばかりに押さえたらしい」

「……へぇ。そうなんだ?」

 平静を装いながらも、心は悪夢から目覚めた時のように()いでいた。

 檜は誰のものでもない、そう思うと嬉しくて、ともすれば顔が緩みそうになる。

 自らが安堵しているのを悟られぬよう、また紅茶をひと口飲んだ。

「それ聞いて思い出したの。そう言えばあたしも昔、同じような事が有ったなぁって」

 ツイと目を上げると、まともに美波と目が合った。

「あの時サチに誤解されたよね?」

 何の話か、いつの話かは、すぐに伝わった。

 ええ、と頷き、目を伏せた。

「今だから聞けるけど。あの時、美波も好きだったよね? 秋月くんの事」