「明日はオフなので。ついこんな時間になっちゃいました」
笹峰さんはあどけない笑顔でペロリと舌を出す。
「そうですか」
僕は彼女を一瞥し、相槌をうった。
「Hinokiさんは、明日は……?」
「有り難い事に仕事です」
言いながら肩をすくめた後、午後イチですけど、と言葉を足した。
ハンドルを握りながら、赤信号で停止した時。不意に彼女が思い出したように手を打った。
「あ! 今日の映画良かったですね? ストーリーだけじゃなく演出も私好みで、ラストは感動しました」
笹峰さんは沈黙を嫌うのか、話題を変えて話しをふった。
彼女なりに気を遣っているのだろうと察し、年下の子に対して若干申し訳なくなった。
「Hinokiさんも。映画鑑賞とか、お好きなんですか?」
「……あ、いえ」
言った後で彼女が首を傾げるので、慌てて補足する。
「ああ〜、て言うか。実は今日たまたま、思い付きで映画を観ようってなって。普段は大体DVDで、たま~に観る程度なんで、」
言いながらアクセルを踏むと、そうなんですか、と相槌が返ってくる。
「笹峰さんは、映画が好きなんですか?」
女優という職に就いているのだから、当然そうなのだろうと思いつつ、訊いてしまう。
やはり緊張しているのだろう。



