「俺の家はさ、家庭環境がちょっと複雑で。物心ついた時には両親は離婚してたんだ。
 俺は母子家庭で育ったんだけど、知らない間に父親は他界。まぁ母親の一存でその不幸が知らされなかっただけなんだけど。
 結局、その後好きになった下級生の女の子が、その男の娘だと分かった。つまりは俺の妹だ」

 透さんがそう言った所で、新しいグラスが僕の手前へと置かれた。

「母子家庭だなんて境遇が同じだなって親近感持ってたけど、妹だったんだよなぁ……」

 遠い過去を見つめるように、彼は虚ろな目をしていた。

「それで。そのあと?」

「ああ。オチとしては最悪だよ。死んだら何にもならない。居なくなったからリセットだなんて、そんな簡単にはいかない」

「そうですね」

 透さんに対して、初対面から好感が持てた理由が今何となく分かった。

 僕と彼はきっと同じ種類の人間なのだ。

 禁断の想いは違えど、彼とは辿ってきた境遇が似ている。

 それでも最愛の人を亡くしている分、透さんの方がきっと辛い身の上だっただろう。

「……‘人を熱くし、明るくし、くつろがせるのは酒と恋である’」

「え?」

 急な格言に、言わずもがな、僕はキョトンとする。