「今、と言っても。その人は俺が昔付き合ってた元カノで。単に忘れられないだけなんですけど」

「……そっか」

 しんみりと話す僕に同調し、透さんは声のトーンを落とした。

「……その彼女とは。うまくいきそうにないのか?」

 問いに対して深く頷く。

「今年。あと五ヶ月もすれば別の男と結婚するそうです。だからもう、潮時もいいとこなんスけど。
 去年の暮れに、五年ぶりに会って。また気持ちが戻っちゃって」

 そう言ってアルコールを飲み干すと、僕は過去の経緯を思い切って話す事にした。

 高校時代、担任教師を好きになり、1年に満たない期間だが、秘密の関係を続けていた事。

 結婚まで考えたその相手に、背を向けられた事。

  若干話すのを躊躇われたが、再会した幸子との、あの情事に関しても打ち明けた。

「事に至る前、彼女に言われたんです。まだ自分は独身だ、って。浮気はいけない事だけどまだ不倫じゃないって」

「……なるほど。それでまんまとのせられたってわけか?」

「話にのった経緯については色々と過去の葛藤があったんで言えないんですけど。
 どうします? マスコミにリークしますか?」

 僕の笑えない冗談に、彼は、いや、と言って頬を緩めた。