「恋人はいるのか、とか。好きな人はいるのか、とか。そういう質問」

 不意に黙り込み、グラスを見つめた。

 前にも似たような事を笹峰さんに訊かれたな、と考えていた。

 去年のクリスマス、あの試写会後のパーティー会場を抜け出した時だ。

 笹峰さんに廊下で呼び止められ、恋人と会うのかを問われた。

「……それで?」

 次のグラスを注文する透さんへ、再び焦点を合わせる。

「透さんは何て答えたんですか?」

「……‘知らない’」

「え?」

「檜とはそういう話をした事が無いから全く分からない。そう言っておいた」

「そうですか」

 何となく、安堵の息が漏れた。

「透さんを信頼して。ちょっとその事で、相談が有るんですけど……」

「おっ、なになに?」

 新しいグラスを眼前に、透さんは目を輝かせた。

 僕は真面目な顔つきで、笹峰さんから渡されたアドレスについて話をした。

 待ってました、と言わんばかりに、彼は身を乗り出した。

「で? その後どうした?」

「え?」

「連絡したんだろ?」

「……まさか。どうすればいいか分かんないんで、そのままです」

 渡されたメモ紙は、言葉通り、あの後財布に仕舞ったきりだ。