ボーダーライン。Neo【中】


「幸子は……結婚も駄目になったし、この際だから逢おうかって。そういう気にはならないと思うんです。
 そもそも、幸子が俺の所に戻って来てくれるかも、微妙だし」

「……だろうね。昨日先生に会った時、彼女はヒノキがいない事に心底ホッとしてた。
 本心は別にしても、そんな都合良く乗り換えられる性格でも無いみたいです」

「なるほどねぇ。てか、意固地になってる、とかそっち系か?」

 透さんは独り言のように言い、料理の皿に箸を付けた。

 けどさ、と眉を寄せ、陸が言う。

「上手く彼女に会えたとしても、ゆっくり話し合うってのは、難しそうだよな?」

「え?」

「だって世評ではついこの間まで、笹峰 優羽ちゃんとのスキャンダルで荒れてたワケじゃん? それが乾くか乾かないかの内に、檜が一般女性と会うってのは」

「ああ、流石に不味いよな。そういう意味でも幸子は警戒して会ってくれなさそうだ」

 職業柄、プライベートを図る困難さにため息を吐いていると、今の話など聞いていなかったかの様に、透さんが言った。

「何か。彼女の心に響く事を、しなければいけないな?」

 ーー響く事?

 幸子の意固地を解きほぐすような、そういう行為だ。

「この間出したばかりの新曲は、珍しく檜が作詞したんだよな?」

「え? ああ、そうです」

 返事をして、透さんが何を言わんとしているのか、あっ、と気付く。