「幸子は……結婚も駄目になったし、この際だから逢おうかって。そういう気にはならないと思うんです。
そもそも、幸子が俺の所に戻って来てくれるかも、微妙だし」
「……だろうね。昨日先生に会った時、彼女はヒノキがいない事に心底ホッとしてた。
本心は別にしても、そんな都合良く乗り換えられる性格でも無いみたいです」
「なるほどねぇ。てか、意固地になってる、とかそっち系か?」
透さんは独り言のように言い、料理の皿に箸を付けた。
けどさ、と眉を寄せ、陸が言う。
「上手く彼女に会えたとしても、ゆっくり話し合うってのは、難しそうだよな?」
「え?」
「だって世評ではついこの間まで、笹峰 優羽ちゃんとのスキャンダルで荒れてたワケじゃん? それが乾くか乾かないかの内に、檜が一般女性と会うってのは」
「ああ、流石に不味いよな。そういう意味でも幸子は警戒して会ってくれなさそうだ」
職業柄、プライベートを図る困難さにため息を吐いていると、今の話など聞いていなかったかの様に、透さんが言った。
「何か。彼女の心に響く事を、しなければいけないな?」
ーー響く事?
幸子の意固地を解きほぐすような、そういう行為だ。
「この間出したばかりの新曲は、珍しく檜が作詞したんだよな?」
「え? ああ、そうです」
返事をして、透さんが何を言わんとしているのか、あっ、と気付く。



