「それに払えと言われてノコノコ出す馬鹿は、差し詰め美人局にも引っ掛かる」
「美人局って。俺の下半身は犬並みですか?」
僕の応答に、彼はやはり吹き出している。
「はい、出来たよー。さわらの香草焼きとサーモンテリーヌ」
「おっ! カイ、さんきゅー」
腰から下に巻くだけのカフェエプロンをしたカイが次々と料理を運んでくれる。
「て言うかさ。みんなご飯足りてる?」
「足りてる足りてる」
率先して食べる僕と透さんを見て、カイは呆れて笑った。
夕方四時過ぎの事だ。
カイの急な思い付きで招集をかけ、男子会と題してカイの部屋で飲む事になった。仕事の都合で遅れたものの、夜の八時を過ぎた頃には透さんも来てくれた。
幸子が書いたあの別れのメモはと言えば、皆が来る前に、カイが燃やして処分していた。
「いや~。しかしまぁ、なんと見事な! カイの料理の腕前は最早プロ並みだよなぁ~」
「ありがとうございます」
「このスティック春巻き、だっけ? 酒のアテには最高って感じだし……これで俺も飲めりゃあな~」
しょんぼりと右手のグラスに目をやり、透さんは肩を落とした。



