「“FAVORITEのHinokiが慰謝料を払う”、これは絶対的に問題になる。
あの人が今回の恐喝は単なるポーズだけで済ますとしたら? 金銭は受け取らずに返すとしたら? 払ったヒノキはどうなると思う?」
僕は事の顛末を考え、胃が痛くなった。
恐らくは、週刊誌に面白おかしく書き立てられるだろう。
「それこそパパラッチの良い餌だよ?
俺が思うにさ。あの人はヒノキを堕落させたいんだよ。それが最高の復讐になる」
ーー結婚をぶち壊しにしたお返しに、か。それだけの恨みを買ったという事だよな……。
眉間にシワを寄せ、ようやくエンジンをかける。車中は沈黙で満たされるが、急にカイが思い付きで言った。
「今日あの人を呼んでみんなでご飯食べるよ?」
「は?」
「俺んちで」
カイは今の状況に似つかわしくなく、陽気に口笛を吹いている。ここぞという時に、肝が座っているのは昔からだ。
きっと亡くなった母親の、ソニアさんに似たんだろう。
カイの言う、あの人が誰かは分からないが、僕は事務所まで車を走らせた。



