「……勘違いですよ」
カサイの隣りに座る僕は、紙を一瞥しただけで、電話と同じ言い訳をする。
卑怯かもしれないが、シラを切り通せば、バレるはずなど無いと思い込んでいた。
そのまま口を噤んでいると、スッと別のメモ紙を差し出された。既に黄ばんでシワの入った紙切れだ。
「……ほら」
ーーは? 何だよ?
怪訝に思い、その紙切れを仕方なく受け取る。
しかしながら、中を開いて驚愕した。
「えッ??」
《別れが辛くなるから眠っている内に帰ります。
あなたの体が三万円だなんて、安すぎるけどごめんなさい。持ち合わせが無くて…。》
途中まで読み取り、目を見開いた。つい“何で?”とこぼしそうになる。
ーー何で、これがここに??
突如として、鼓動が早くなる。僕は明らかに動揺していた。
幸子を抱いた翌朝、部屋で読んだこの書き置きは、確かにこの手で丸めてゴミ箱へ捨てたはずなのだ。
それがどうして、この男から?
「ヒノキ? どうした?」
カイの声に思考を遮られ、僕は顔を上げる。
「いや、その……」
声はどもるばかりで言葉にならない。



