何処かで会った気がする。それもごく最近に。

 僕は男の顔を凝視しながら、記憶を辿った。

「俺の顔を覚えてるのか? この間会ったよ、お宅のプロダクションで」

 ーーえ。事務所で?

 そう考えてから、記憶の中にピカッと光る物を感じた。

 ーーそうか。この人、あの時すれ違った営業マンだ。

 茜に社内を案内されていた二人の内の一人。ムスッとした顔で僕を睨んでいた、あのアンチHinokiだ。

 僕は彼を見て、サングラスを外した。

 ーーこの人がカサイ。幸子の婚約者か。

 見るからに真面目そうで、正義感が強そうだ。一見、女に手を上げるようは見えないが。

 ぶらりと降ろした拳を、自然と握り締めた。

 ーーコイツが、幸子を殴ったのか。

 そう思うと嫌悪感でいっぱいになる。

 カサイは僕たちに背を向け、元のベンチに向かって歩き出す。着いて来いと言う合図だと思い、足を出した。

「立ち話をすると逆に目立つ」

 そう言って彼はベンチに腰を下ろした。僕とカイも仕方無く並んで座る。

「話は簡単だ。秋月 檜に慰謝料を払って貰いたい。一週間以内にこの口座に振り込め」

 ズボンのポケットから口座番号を書いたメモを取り出し、事務的に命じられた。