電話の中で、一人で来いとの指定が無かったため、カイが同行を買って出た。

 僕は正面を見据え、無言で首を捻った。

 確かに、この先に見えるベンチに男が一人座っている。

 にわかに緊張が走り抜ける中、ポケットに入れた携帯がブルブルと震え出した。

 ディスプレイを見ると、思った通り、十一桁の知らない番号が並んでいた。

 僕はカイに目配せし、電話を繋いだ。

「…はい」

『一人では来れなかったのか?』

 午前中、楽屋で聞いた声と同一のものだ。それと同時に、真正面に座る男がベンチから立ち上がり、電話の相手だと確信する。

「ああ。カイと一緒に来ました。駄目でしたか?」

 電話越しに一瞬、沈黙が流れるが、いや、と返事がある。

『……別に良いけど。やっぱり“保護者”って言うのは本当なんだな?』

 カイが僕にとっての“保護者”。これは世間で揶揄されている言葉だ。

 まあ、と薄く笑い、眉をひそめた。

 男は歩き出し、こちらへ近付いて来る。向こうが先に電話を切ったので、僕も携帯を元のポケットに仕舞った。

 男はTシャツにチノパンといったラフな格好をしていた。

 どちらかと言えば中肉中背で、髪は短髪、身長は僕やカイよりも少し小さいが、年齢は一回りぐらい上に見えた。

 ちょうど顔が確認出来る距離まで近寄り、あれ、と思う。