音楽が好きで、歌が好きで、幼い頃からの夢を現実のものとした。

 けれど、この先のビジョンに、僕は言い知れぬ不安と迷いを抱えていた。

 今までの様に、メンバー揃っての音楽を主流に、それだけで大成していくべきか。

 はたまた、個々に実績を積み、尊敬する透さんの様に、僕も俳優業やバラエティーといった様々な分野で活躍していくべきか。

 どちらにしろ、社長の意向にそぐわない道は、強制的に軌道修正されるだろう。

 しかし、いつかその選択をする時がくるかもしれない、と。

 僕は蜃気楼さながらに、うっすらと考えていた。

「檜。撮影は朝イチで行うそうだ。くれぐれも遅れないようにな?」

「あ、うん」

 念押しする竹ちゃんにようやく笑顔で頷いた。





 それから数日を経て、撮影が行われた。

 監督から発せられるカットの合図がスタジオ内に響く。

 張り詰めていた緊張感が一転して緩んだ。

「ハイ、オッケーでーす! お疲れ様でしたー」

 撮影が終わると、途端に元のざわめきが耳に戻ってくる。

 僕はセット台から降り、側に控えていた竹ちゃんから水を貰う。

 ペットボトルを傾けて飲んでいると、背後から、あの、と甘やかな声が届いた。

 振り返って見ると、先ほどカメラを前に演技していた笹峰さんが、ぶらりと下ろした両手を絡め、控え目に立っている。